ネコ白血病ウィルスがヒントになる感染症対策


レトロウィルスとは?

一般に『レトロ』と言うと『回顧的』という意味合いで使われ、『昭和レトロ』とか『レトロな雰囲気の喫茶店』というように懐かしい、素敵な雰囲気を感じます。




しかしウィルスの場合は『逆転写酵素を持つRNAウィルス』のことを指し『逆』という意味合いが強いです。



つまりRNAをコピーしてDNAに変換できるので、それが細胞のDNA内へ入り込むことができるのです。

ぶっちゃけた言い方をすればかなり厄介なウィルスで、残念ながら懐かしい雰囲気に浸るどころではありません。



ただ、このレトロウィルスは我々人間を含めた生物の進化に大きく影響してきました。


恐竜絶滅にも関わったかも?

この『細胞内のDNAに入り込める』という性質を生かし、生物のDNAを書き換えてきたのがレトロウィルスです。


細胞内のDNAに入ったレトロウィルスは、『内在性レトロウィルス』と呼ばれるようになり、その生物のDNAの一部として引き継がれていきます。



それによって変動していく地球環境に適応してきたのですが、全てが進化に寄与するわけではなく、時に絶滅のきっかけになった書き換えもあったと思われます。




例えば恐竜の絶滅理由は、隕石の落下とか気候変動とか様々な説が出ていますが、まだ決定的な理由が分かっていません。



確かにそのような地球全体の大きな変化が、最後の決定打になった可能性はあると思いますが、あれだけ栄えた生物が絶滅するというのは、もっと複雑に理由がからみあっていたと考えます。



そしてその理由の一つが、このレトロウィルスの感染だったのではないか・・と。

レトロウィルスの感染が胎盤を生んだ

そんな想像をするようになったのは、脳腫瘍跡のある恐竜の化石があると聞いた時です。


レトロウィルスは別名:腫瘍ウィルスと言われるほど腫瘍の原因を作ることがあります。



恐竜の時代は、まだ卵で出産していたはずですが、その後脊椎動物が胎盤を持つようになったのは、レトロウィルスの感染によると言われています。



つまりレトロウィルスによる感染で、自分の細胞のDNAを書き換えてあれほど大型化した恐竜も、あるタイミングで環境に合わない機能がお荷物になってきたのかもしれません。



1回のウィルス感染で胎盤ができたわけではないので、その完成まで複雑にDNAの書き換えを行ったと思われます。

生殖に関わる細胞の近くで、何世代にも渡ってそういった作業が繰り返されてきた結果、例えば妊娠率とか出生率が下がるような状況を招いていたのかもしれません。



体が大きいということは、それだけ活動エネルギー(食事)が必要なわけで、地球環境が変わり、エサにしているものの種類や量が変わるというのは危機的だったと思われます。



そこに追い打ちをかけるように、出生率の低下が重なり、一気に絶滅へと進んでしまったのかもしれません。


ゆっくり進行するはずのネコ白血病が、急激に進行する原因

ネコ白血病ウィルスやヒトHIVウィルスは、このレトロウィルスの仲間です。



ヒトHIVウィルスに感染すると免疫不全が起こりますが、これは免疫細胞にこのウィルスが感染して、免疫機能を司るDNAを書き換えてしまうことによって、機能不全に陥るからです。



ネコ白血病ウィルスは、その名の通り白血病やリンパ腫を起こしますが、病気の進行が非常にゆるやかなのが特徴です。

そのためうまくいけば、ウィルスのキャリアのまま天寿を全うできることもあります。



ところがウィルスの遺伝的性質はほとんど変わらないのに、なぜか免疫不全に陥ってアンコントロールになり、数か月で死に至る時があります。



病気の進行に何年もかかるケースと、たった数か月のケースがある原因は長らく分かっていませんでしたが、このような急激な免疫不全症に陥るのは、同じネコ科でもライオンなど大型動物には起きず、今の所イエネコに特化しています。



そこでイエネコの遺伝子を研究していた方たちが、イエネコの細胞に内在しているレトロウィルスに注目しました。



ウィルスそのものの病原性だけが病気の重さを決めるわけでない

外から感染するネコ白血病ウィルスのうち、わずかな変異があって細胞に侵入できても急激に増殖できない型があります。


このような変異ウィルスは、病原性が弱く感染しても症状が出なかったり、出てもあまり重くありません。

まさにネコ白血病ウィルスキャリアの猫の多くが、ゆっくり症状が進むように、完治は難しくてもうまく付き合っていくことが可能な場合も少なくありません。



ところが内在性レトロウィルスの中に、イエネコだけが作る特殊なタンパク質(FeLIX)があります。


このタンパク質が外からやってきたレトロウィルス=ネコ白血病ウィルスの増殖を助けていたことが判明したのです。



そのタンパク質の働きによって、ウィルスの増殖が急激に進み、数か月で死んでしまうのです。



ウィルスにとって宿主が死んでしまうと、自分たちも増殖できなくなるので、どんな目的でイエネコがこのタンパク質を作るようになったかは分かりません。

他の大型ネコ科にはないタンパク質なので、イエネコがイエネコたる存在になる過程で作った機能かもしれません。


ただこれが本来の使い方ではないように思います。



ウィルスならではの事情

どちらにしろ、ウィルス本来の病原性ではなく、感染した細胞に内在していた仲間が病原性を高めるケースもあるというのは、ウィルス感染ならではの事情でしょう。



こういったことはウィルスによる感染症では、割とあるのかもしれません。

しかしどうしても病原性の高い病原体の研究が優先される昨今。



生物がすでに保有している内在性ウィルスが、時として混乱を引き起こすことを頭に入れておくのは、今後の感染症対策に重要だと考えます。




そこから考えると

「変異株は感染力が高い」

「病原性が高い」

という話も、今は変異株そのものの問題ばかり追いかけていますが、ネコ白血病ウィルスのように受け手側の細胞に何か感染しやすい(or重篤化しやすい)条件はないのか?という視点での研究も進むことを願ってやみません。




関連ブログ⇒ワクチン代わりになる感染