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タウリン考~タウリンは本当にアミノ酸の一種?その構造と動物の病気から学ぶ重要な働き


連日リオデジャネイロから、世界中のアスリート達の熱戦が続いています。

アスリートやダンサーなど、毎日ハードな運動をしている人はもちろん、一般人である私たちにも欠かせない、アミノ酸とタウリンのお話を。

人の必須アミノ酸は9種

犬は10種(人の9種+アルギニン)

猫は11種(人の9種+アルギニン+タウリン)

動物関係の勉強をしている時は「ハイ、これ試験に出ま~す」っていうくらい鉄板知識です。

しかし・・・タウリンってアミノ酸でいいのかな?

栄養学の見解では、アミノ酸なのかな?

そういう余計なところが気になって、勉強が先に進まなくなる悪循環は昔から・・・・。

「学校の成績良くなかったでしょう?」

「教科書に書いてあるんだから、そのまま覚えればいいのよ」

ハイ、おっしゃるとおりです。

タウリンはアミノ酸と言えない理由

サプリメント関係の本でも、タウリンを『遊離アミノ酸の一種』と説明されているのを良く見かけます。

しかしアミノ酸とは『炭素原子にアミノ基とカルボキシル基の手を持つもの』という前提があります。


この二つの手で様々なアミノ酸とつながっていき、

アミノ酸2個~10個⇒オリゴペプチド

11個~50個⇒ポリぺプチド

51個以上でようやくタンパク質となります。

ところが、タウリンにはアミノ酸としてあるべきの、カルボキシル基がないのです。

アミノ酸はアミノ基とカルボキシル基の手をつないで行くことで、タンパク質を形成していきます。


手をつなぐ順番・長さ(個数)は、すべて設計図(DNA)があって、それに従って形成されます。

そうして出来上がったタンパク質で、最少(アミノ酸51個)のものに、インシュリンがあります。

メタボ対策とか、ダイエットでお馴染みの、血糖をコントロールするホルモン物質ですね。


数100個で形成されるタンパク質が多いですが、中には数100万個というものもあります。

それでも、手をつなぐ順番が決まっていて、それを間違うと大変なことが起きます。


例えば、貧血になりやすい女性には身近なヘモグロビン。

これはα鎖(アミノ酸141個)とβ鎖(アミノ酸146個)各二本ずつ計4本で形成されています。

このうちβ鎖の6番目にあるグルタミン酸がバリンになると、『鎌状赤血球貧血』ということが起こります。


このようにアミノ酸は身体のあらゆる設計図に席順が指定されています。

しかしタウリンは設計図上の遺伝暗号に、アミノ酸として指定されていません


確かに人や犬の場合、含硫アミノ酸(システインやメチオニン)から合成できますが、原料がアミノ酸だから”アミノ酸の一種”というのは・・・。

日本酒は米から出来ているから、”米の一種”というようなものです。

あるいは醤油を”大豆の一種”と。

実際、醤油の発酵過程並みに、複雑な過程を経てタウリンは体内で合成されています。

しかしタウリンがアミノ酸でなくても、非常に重要な物質であることは間違いありません。

重要だからこそ、十分な量が摂れなくても合成できるバックアップシステムを構築したのでしょう。


タウリンが体にとって重要な成分である証拠

1992年小腸に、タウリン・トランスポーターが発見されました。

簡単に言えば、タウリンを吸い上げる専用スポイトといった感じでしょうか。

するとこの専用スポイトが、心臓や肝臓・脳・脊髄など体内の重要な場所でも見つかりました。

小腸では摂取した食品から、その他の臓器では血液に乗ってやってきたタウリンをピンポイントで吸い上げるのですから、体にとってどれだけ重要な成分かという証明にもなるでしょう。

同様に専用のスポイトはチアミン(⇒詳しくはこちら)にも見つかっています。

CMでおなじみのドリンク剤の影響で、タウリンと聞けば”疲労回復の味方””気合が入る”といったイメージを浮かべることが多いかと思います。

では実際、タウリンはどんな役目をしているのでしょう。

タウリンのお仕事

一言で言うと、浸透圧の調整です。

細胞膜の内側は、タンパク質など様々な内容物が含まれていて、濃度が高い状態です。

しかし自然界の法則で、濃度の高いものは希釈して均一にしようという力が働きます。

生物の体内において、この作業を自然の法則だけに任せておくと色々な問題が起きます。

なぜなら摂取した栄養素や病原菌・ウィルスなどの有無、その時の疲労度、環境(暑い・寒い・湿気・乾燥等)などは常に変化するものだからです。

状況に応じて、細胞膜内外の水分を行き来させないと、細胞が損傷してしまいます。

この調整をしているのが、タウリンなのです。

海に住む魚類から、我々哺乳類まで、体内のナトリウム濃度はほぼ同じです。

これが

『生命は海から生まれた』

と言われる所以ですが、あれだけしょっぱい海水に住んでいても、同じナトリウム濃度が保てるのもタウリンのお蔭です。

(しょっぱいお刺身ってないですものね)


魚介類の中でも、特にタウリンが豊富なのは丈夫な表皮やウロコを持たないイカやタコ。

ダイレクトに海水の影響を受けますから、全身にタウリンを拡散させて自身の細胞を守っているわけです。

ちなみに淡水魚は海水魚や我々より、ナトリウム濃度を0.3%ほど高めに保持しています。

これはナトリウムが低い真水に生きる環境に適応した結果です。

もちろんこれにもタウリンの貢献があってのことです。

猫にとっては必要不可欠!

タウリンが哺乳類の目に多く存在していることは、かなり前から学者の間では知られていました。

ところが、タウリン不足が猫の失明の原因と判明したのは割と最近で、1975年のことです。

これは、アメリカでドッグフードが普及し始め、それを猫にも食べさせていた家で、失明やある種の心臓病が続出したのが研究のきっかけでした。


実は猫もごくわずかですが、人間や犬と同様肝臓などで生合成しているのでは・・という説もあります。

ただどちらにしろ、必要量を満たすほどの量ではありません。


タウリンが不足すると、網膜の光を感じる細胞が死んでしまいます。

心臓の筋肉で不足すると、やはり細胞が損傷して、心筋の弾力がなくなります。そうすると拡張型心筋症という病気を招くことがあります。

また最新の研究では、タウリンが脳内で神経伝達機能を持つことが分かってきました。

まだ試験管レベルでの話ですが、アルツハイマー型認知症の予防薬になる可能性が出てきました。


認知症については、もう一つ興味深い研究があります。

それは、人は認知症になると脳の一部が萎縮してきます。

(萎縮が起こって認知症状が出てくるとも言えますが)

ところが、犬や猿では認知症状が出ても、その部分に萎縮は起こりません。

やはり人の脳は、進化の頂点にあるから特殊なのか?

・・・と思われましたが、数年前に、猫では人と同じ部分に萎縮が起こることが判明したのです。

動物の病気を知ることで、私たちの病気を乗り越えるヒントが

またタウリン不足で失明した猫と、網膜色素変性症の人の網膜の損傷具合が酷似していることも分かっています。

意外や意外、人と猫の間に次々と重要な共通点が見えてきました。

タウリンは全身に専用の吸い上げスポイトを持ち、網膜や心筋・脳を始め、必要としている組織に滞りなく届くよう、万全のシステムが構築されています。


しかし、生合成しているのは肝臓のみ(妊娠中は胎盤でも生合成します)。

もし肝臓に何らかのダメージ(持病、疲労、感染症など)があった場合、一時的に生合成能力が落ちることも考えられます。


本来なら十分な生合成能力を持つ人や犬でも、そんな緊急時のバックアップとして、小腸にもタウリン・トランスポーターを整備したのでしょう。

生合成しないで、手っ取り早く消化された食べ物から吸い上げる・・・。

本当に体の仕組みはすごいですね。


驚きと共に、長く一緒にすごしてきたパートナー達が、『私たちの健康を守るヒントを示してくれている』と感謝とも尊敬とも言えない不思議な気持ちになり、今日も毛むくじゃらの体をモシャモシャ、なでなでしています。

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