お問い合わせから№19~混合ワクチンは5種より8種の方が安心?ジステンバーの動向とワクチンに対する考え方
- 青い森工房
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更新日:12 分前

混合ワクチンとは
狂犬病ワクチンは畜犬登録すると毎年お住まいの自治体から接種のお知らせが届きます。しかし混合ワクチンは、かかりつけの動物病院からハガキが届くことが多いでしょう。
ここ数年、初めて犬を飼った方が増えているせいか
『狂犬病ワクチンは義務だと聞いているが、混合ワクチンって何?』
『昔、実家で飼っていた犬は接種したことがない』
『5種より8種の方が安心なんでしょ?』
というお話を伺うことがたびたび出てきました。
確かに狂犬病ワクチンと違い、混合ワクチンに接種義務はありません。
しかしトリミングサロンやペットホテル、ドッグランの利用に混合ワクチンの接種を義務付けている所は少なくありません。

そういった所では多くのワンちゃんを受け入れるので、1頭でも感染していた個体がいると一気に広まってしまうリスクがあるためです。
また感染していても、発症前で症状がみられなければドッグランで遊んだり、トリミングを受けてしまうこともあります。
その後で発症しても、飼い主さんが直ちに立ち寄ったお店などに連絡をしてくれるとは限りません。
お店や施設が接種証明書の提示を求めるのは、多くのお客様に安全に利用してもらうためであり当然のことと思います。
一方でアレルギーや持病などで接種できないワンちゃんがいるのも事実です。
そういった個体に対する理解や配慮も大切だと考えてます。

5種混合より8種混合の方が効果が高い?
5種より8種、10種などより多くの病気に対応するワクチンの方が良いか・・というと単純にそうとも言えません。
何種を接種するかは、お住まいの地域の環境や事情(キャンプが趣味、自然が豊かな場所に遊びにいくことがある等)に合わせて獣医師と相談して頂くのが一番だと思います。
ちなみに5種混合ワクチンには、コアワクチンと呼ばれる全ての個体に推奨される
・ジステンバーウィルス
・犬パルボウィルス
・アデノウィルス1型(犬伝染性肝炎)
・アデノウィルス2型(犬伝染性咽頭気管炎)
が含まれています。
これに接種義務のある狂犬病ウィルスワクチンを加えた5種類が犬のコアワクチンと呼ばれています。
5種混合ワクチンには狂犬病ウィルス以外の4種と犬パラインフルエンザを混合してあります。
8種や10種というのはレプトスピラ症のワクチンが加わっています。
レプトスピラ症にはいくつか型があるので、何型入っているかによって8種とか9種、10種とあります。

人獣共通感染症であるレプトスピラ症
レプトスピラ症がここ数年注目されているのは、都市部での発症が見られるようになったからです。
一般に野生動物の多い地域やキャンプなど自然環境で遊ぶ機会が多いと、感染リスクが高いと考えられてきましたが、そういった場所ではなかったり、そのような経験がない個体の発症が報告されています。
レプトスピラ症は犬特有の病気ではなく、人獣共通感染症で台風や水害の後に人間の感染が報告されることがあります。
水害等で野生動物の糞尿が含まれた水が、人間の生活するエリアにも流れてきて小さな傷などから感染することがあります。
過去には台風後の電気復旧工事にあたっていた方が、集団感染したケースなどもあります。
頻繁に起こる感染症ではありませんが、これから川遊びや山でのキャンプなどが楽しい時期ですので、そういった所へ行くのであれば獣医師と相談されると良いでしょう。
レプトスピラ症のみに対応したワクチンもあるので、後から必要に応じて追加接種も可能です。

ジステンバーの新たな問題
かつて犬にとって大変恐れられたジステンバーは、発症を聞かなくなりました。
今も決定的な治療法はなく、症状に応じた対処療法しかないため本当に良かったと思います。
しかも一回治ったように見えても、数か月後や免疫力が落ちたシニア期になって再発症することもある厄介な性質を持つウィルスです。
このウィルスが脳や神経系に達すると、死亡率も高くなります。
仮に回復してもてんかん発作や同じところをぐるぐる回る、手足がピクピクするなどの後遺症を残すことがあります。
発症直後は”お腹の風邪”くらいに見えますが、実際は大変な病気なので犬の感染報告が減っているのは嬉しいことですが近年、野生動物での死亡例が各地で報告されています。

ジステンバーの今後の動向
ジステンバーは牛痘ウィルスや人間の麻疹ウィルス(はしか)と非常に近いウィルスです。牛痘ウィルスは撲滅されましたが、麻疹は近年、感染・発症の報告が続いています。
大都市部でアライグマやタヌキの出没がニュースになりましたが、あのような野生動物のジステンバー感染が報告されています。
他にもキツネやイタチ、イノシシ、アナグマ、ハクビシン、サルなど。
保護したハクビシンから飼い犬に感染したケースや、海外では飼われていたサルがジステンバーで死亡したケースも報告されており、人間への感染が起こらないか一部の研究者から危惧する声も出ています。
身近なところではペットのフェレットの感染も報告されていますが、現時点ではフェレット用ワクチンはありません。

ワクチンに対する考え方
ワクチンに対する考え方は様々で、オーストラリアのように狂犬病ワクチンを禁止した地域もあります。
これは動物愛護の観点で禁止した・・というわけではありません。
『ワクチンによる抵抗力があると、感染が分かりずらく、迅速な隔離、処分ができない』というのが理由です。
動物愛護ではなく、検疫上の理由なのです。
狂犬病は哺乳類全てに感染し、死亡率100%という病気です。
オーストラリアといえば、乳製品や牛肉、羊肉など畜産が国の重要な産業です。
それを守るための対策と思われますが万が一どこかの牧場で感染が認められたら、その地域に住む犬猫も処分の対象になるのでしょうか?
この対策の趣旨を鑑みると、そのような可能性も考えられ、非常に考えさせられます。

日本では犬猫の感染は半世紀以上なく、この10年以内では海外で感染した人が国内で発症したケースが2件あるのみです。
そのため「もうやめてもいいのでは?」という声も出ていますが、海外での発生状況と日本の検疫体制を考えると、残念ながら”もろ手を挙げて賛成”・・とまではいきません。
抜け穴の多い検疫体制を強化し、一方でこれまで接種してきた犬に対する接種条件は見直す時期ではあると思います。
ワクチンが全てではない
そもそも感染症の全てがワクチンで防げるものではありません。
風邪は生涯で何度も罹るように、あえて抗体を作らない方が良い場合もあるのです。
(猫伝染性腹膜炎のワクチンが失敗したのは、”悪い抗体”を作りかえって感染を強めてしまうことが分かったから)
ワクチンは”良い抗体”を作るために接種するものですが、不必要なワクチンや効果をあまり期待できないものまで接種する必要はないと考えています。
そして何より、健康な体に使用するものですから、薬以上に安全性が確立されたものであるべきと考えます。新商品が必ずしも最良のものとは限らないため、不安がある時は必ず獣医師と相談の上、選択されることをお勧めします。