それ、君が確認したのか?~基礎の大切さ
- 青い森工房
- 2017年5月16日
- 読了時間: 3分
更新日:2021年2月22日

これは、2010年7月にご逝去された梅棹忠夫 先生の言葉です。
1992年、青森県営野球場建設に先立つ発掘調査で、前例がないほどの巨大集落を表す膨大な土器や石器、祭祀遺物が出土しました。
しかし、野球場は予定通り着工。
ところが二年後に、直径1メートルにもなるクリの木の巨大柱跡が見つかり、保存の声が上がります。しかしすでに三塁スタンドは出来上がっており、”工事続行”か、”遺跡保存”か様々な意見が論じられました。
そんな頃、梅棹先生は来青し、この遺跡の重要性を指摘。
一気に”保存”への気運が高まりました。
梅棹先生は、文化人類学のパイオニアと称されることも多いですが、その研究生活の原点は生態学でした。
学生時代、山岳部の活動に熱中しすぎて2年も留年した逸話があるくらい、活動的な方で、研究生活でもフィールドワークを非常に大切にされていました。
その後研究は、動物社会学から民族学・比較文明論に広がり、今も多くの学問に影響を与え続けています。
その梅棹先生の言葉は、常に大きな戒めとなっています。
学生や研究者であっても「○○先生の論文で・・」なんて言おうものなら
「そりゃ、○○氏の研究だろう?人の研究や。それ(論文で証明されていること)を君は確認したんか?」
最新の論文なら、○○大学の研究なら、○○先生の論文なら・・・
自説に都合の良い前提(論文)なら、尚更信じたいものです。
20年前と比べても、さらに早い結果を求められる昨今ですから、『時間がない』という理由で、基礎的なことはすっ飛ばし、とにかく新しい結果を出さないとなかなか認めてもらえません。
『そもそもこの前提(基礎)は本当なのか?』と疑問でも呈しようものなら、
『お前はバカか?そんなこと教科書に書いてある常識だ!』と怒られるのがオチです。
厳しい社会情勢や経済状況が続くこともあり、すぐに利益につながらない基礎的な研究は、早々に打ち切られる上、研究者も生活があるので、どんどん減ってきています。
しかし≪すぐにお金にならない基礎的な研究≫が、≪企業に大きな利益をもたらす特許技術≫になることは、世界中で毎日申請される”特許資料”が証明していると思います。
どれも”誰かの基礎研究”から始まり、それをいち早く利用して技術特許を申請する。
もちろん、どの基礎研究に着目するか、そこからどうやって技術を確立するかといった部分にも、優れた研究者が必要です。
しかしこの世界は、やはり卵が先でなければ始まりません。
今世界中で、海洋資源の保護のために、漁獲量を制限する取り決めがなされています。
これも、卵⇒稚魚⇒幼魚⇒成魚⇒産卵という、生命の基本的なサイクルを守らなくては絶滅してしまいますよ、という極めて初歩的な決まりを守らない人たちがいる世の中になったという残念な取り決めです。
皆が欲しがるもの⇒たくさん売れる・高く売れる⇒じゃんじゃん獲る・作る⇒儲かる
このロジックは、農産・水産・畜産の世界だけでなく、工業製品であってもその原料には鉱物など天然資源由来のものもあり、多くの業界を疲弊させる原因になっているように思います。
昨年、ノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典先生も指摘されたように、
「ゆとりを持って基礎科学を見守る社会であってほしい」
という言葉に強く共感し、同時に改めて危機感を持ちました。
日進月歩で進む科学技術も、実はその基礎は50年も100年も前の忘れ去られていたような研究の延長にあるものがたくさんあります。
”型破り”は型=基礎があって初めて成り立つもの。
”型無し”の研究がはびこるような世の中に、未来はありません。