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8月~9月は要注意!犬と人のレプトスピラ症


家畜伝染病予防法上、犬で唯一の届出伝染病

レプトスピラ症はネズミなどのげっ歯類を自然宿主とする病原性レプトスピラという細菌が原因となる人獣共通感染症です。


感染経路としては皮膚からの経皮的感染と口からの経口感染で、1970年代は年間50人もの死者を出してきましたが、衛生環境が向上した現在、感染も年間20人程度。死に至ることは稀な感染症になりました。


基本的に熱帯や亜熱帯など気温が高い状況で感染が流行しやすいため、日本では8月から9月が発生数のピークとなっています。


近年の感染例は、沢歩きやキャンプで沢の水を飲んだケース。

また時に集団感染も発生してますが、それはカヌーなどの観光川下りガイドや水害復旧工事の関係者などで、日常生活の中で感染することはほぼなくなりました。


感染症法上は4類感染症に指定されており、診断した医師は届け出義務があります。



げっ歯類が腎臓に保菌し、尿で排出されることで多くの哺乳類に感染するため、家畜伝染病予防法にも指定されています。

こちらも現在は畜産現場の建屋や衛生環境の向上で、牛や豚への感染はほとんど報告されていません。


それでも年間20~50頭ほど発生していますが、ほとんどが”犬”での発症です。



その理由の一つは保菌期間の差です。



例えば直近では2020年に一頭、牛の発症が報告されていますが、牛は数週間しか保菌しません。


しかし豚は数か月から長くて1年ほど。


それに対して犬は短くても数年腎臓で保菌し続け、生涯保菌し続けることもあります。



犬が感染すると激しい嘔吐や血の混じった下痢、発熱といった激しい症状が出る型(カニコーラ)や黄疸が出る型(イクテロヘモラジ―)もありますが、不顕性感染といって症状が出ないで自然に治ってしまうケースもあります。

その場合は、犬自身は健康に過ごすことができますが、尿からは菌を排出し続けます。


ワクチンがあるのになぜ?

犬の場合は、8種混合や10種混合ワクチンにレプトスピラ症に対応できる株が含まれています。

レプトスピラには250もの血清型があることが分かっているのですが、なかには非病原性(保菌していても病気にならない菌)のものもあります。


犬の場合、7つの病原性血清型が判明しています。

そのうち8種混合ワクチンには重症化しやすいCanicola(カニコーラ)Icterohaemorrhagiae(イクテロヘモラジー)が含まれ、さらにPomoba(ポモバ)とGrippotyphosa(グリッポスィフォーサ)2種を加えたのが10種混合ワクチンです。



カニコーラを別名:出血型と言い、激しい嘔吐の他、吐血や血の混ざった下痢などが見られます。


またイクテロヘモラジ―は黄疸型とも呼ばれていて、発熱・嘔吐・下痢などはカニコーラと同じですが、黄疸や血尿が見られるのが特徴です。



つまり6種混合ワクチンより多価のワクチンは、全てレプトスピラ症対応ということになりますが、それでも犬の感染が毎年出るのは、

・単純にワクチンをしていなかった

・抗体量が下がっていた

・ワクチンにない血清型に感染した

のどれかだと思います。



三番目の理由だとワクチンでは防ぎようがありませんが、どちらにしろ感染症はレプトスピラ症だけではないので、キャンプ等自然の中で遊ぶ時には

・生水を飲ませない

・汚染が考えられる水場・水たまりなどには入らせない

・傷口から感染するものもあるので怪我に気を付ける

ことが大切でしょう。



そして万が一遊びに行って1日~2日で先に書いた症状が出た場合は、獣医師にその旨を伝えることで、速やかに治療できると思います。


多発する水害現場で感染注意

近年、全国各地で水害が起こるようになりましたが、2011年にその復旧工事作業者の間で集団感染が起こったことがあります。



大きな水害で、土砂崩れが起こった現場などでは野生動物の尿が含まれていても不思議ではありません。

またネズミの80%が保菌しているという説もあるので、都市部でも大雨の後の散歩や後片づけなどは注意が必要です。


先の集団感染時も、長靴に泥水が入りながらも作業を続けたことによる、経皮感染だったようです。



人間の場合の初期症状は、発熱・頭痛・筋肉痛など風邪の症状とよく似ています

ただこの2年、悲しいことに発熱を伴う風邪症状は指定機関でしか診察してもらえず大変な状況です。

レプトスピラ症の場合、適切な抗菌剤投与が必要で、早期治療を逃すと重症化することもあり腎臓などに大きなダメージを負います。



そのため解熱鎮痛剤による様子見や、郵送で受け付けてもらえる検査が陽性だからといってコロナと診断されてしまうのは危険です。

言うまでもありませんが、レプトスピラ症はPCR検査やコロナ用抗原検査では正しく診断できません。




今年は青森県内でも水害が続き、未だに土砂やがれきが散乱している地域があります。

また廃棄する農作物目当てにネズミや野生動物が集まってきて、そういう動物の尿がヒトの活動域近くに存在する可能性も出てきます。


そのため万が一そういった災害現場で作業、もしくは住民の方に発熱等の症状が出たら、レプトスピラ症の可能性も考慮し、早期に治療が開始できることを願うばかりです。


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