
いきなり”そもそも論”になってしまいますが、動物栄養学はペットのために生まれたものではありません。
家畜・家禽類の
〇肉質や食味を良くするため
〇安定した生育・繁殖
などを中心に発達してきた経緯があります。
牛・豚・羊・鶏などは食肉として、いかに短時間で可食部を増やすか。
また牛の場合は継続的に搾乳する為に、妊娠・出産を繰り返さなくてはなりませんので、それが順調に進み、乳量を増やすためにはどうするか?
鶏ならばより効率よく、継続的に、美味しい卵を採るためには?・・・などを達成するために、研究されてきました。
特に食肉に関しては、動物ごとに出荷までの時間がほぼ決まっています。
これがペットとして生きる犬や猫と決定的な違いです。

つまりペットのように『天寿を全うする』ことを目的としていないのです。
”動物栄養学”という名前でも、実は私たちの栄養を満たすための”栄養学”とも言えます。
もちろんその研究の中には、私たちの健康につながる発見があったのは確かです。
また動物としての基本的な栄養と健康に関連する情報もあります。
しかし実際に両者(家畜&ペット)の栄養管理を実行するとなると、そこには大きな隔たりがあります。
『病気にさせない』これは家畜もペットも同じです。
しかし鶏なら45日、豚は180日ほどで出荷するまでの期間『病気にさせない』ことを目指しています。
そのため家畜・家禽の場合、糖尿病や心臓病、腎臓病、肝臓病、ガンなど慢性的に進行する病気に対する栄養管理は想定されていません。

一方ペットの場合、小型犬や猫なら14年~15年ほどの天寿を全うするまで、年齢ごとの『病気にさせない』食餌・生活が求められます。
人間と同じように、”成長期”と言っても、幼児と小学生、また中高生では必要な栄養素や運動、生活パターンは違いますよね。
犬猫の場合は、1~2年という非常に短期間で成長期が過ぎていきますが、それだけに毎日の食餌の質や運動などが、壮年~老年期の健康状態に大きく関わります。
『栄養豊富な食餌』とは『カロリー豊富な食餌』ではありません。
また成長期にはビタミン・ミネラル類のバランスも重要ですが、ビタミン・ミネラルの数字(量)がクリアしていれば良いというわけではありません。
どんな物(食材)からそのカロリーや栄養素が構成されているかが重要です。
なぜなら家畜と違い、体重を増やしたり、甘い脂肪を付けたり、肉質を柔らかくすることを目的としていないからです。
・骨や筋肉、関節の動きを維持する
・摂取した栄養を吸収、代謝する能力を高める
・運動で心臓や肺を鍛える
・体内の老廃物を処理したり、細胞維持に必要な脂質代謝を司る肝臓のケア
などを考慮した食餌管理が中心となります。

サシの入ったお肉は美味しいですが、そのような体脂肪をつけた状態で生活していくのは”健康的な体”とは言えません。
仮に感染症や怪我など、突発的なことが起こった場合でも、それまでの食生活で治り方に差が出てきます。
もちろん体質的なことや犬種・猫種ごとに罹りやすい病気はあり、”老化”という避けられない事実もあります。
病気に関しては、今は医療が発達しているので、寿命を延ばすことは可能です。
しかし『寿命を延ばす』ことが必ずしも『天寿を全うすること』とは一致しません。
感染症や飢餓で命を落とすことが少なくなったペット達は、これほど長い犬生や猫生を送るのは歴史上初めてでしょう。
同時に動物医療や動物栄養学上も初めてのことが、現在進行中です。
人間の世界でさえ
『一日30品目食べましょう』(⇒厚生労働省のHPからも削除されましたね)
『糖質制限がいい』
『脂質制限が最も効果的』
など数年の間にめまぐるしく情報が行き交っています。
どれも正解であり、同時に不正解でもあります。
つまり100%合致する人はいないのです。
その体質差(個体差)こそ、その生物が絶滅しないための重要なファクターです。
そして犬が犬らしく、猫が猫らしく日常生活を送るために、動物に関わる人間ができることは何でしょう?
日々謙虚に学び、現時点で最良だと思える選択をしていけたらと思っています。