
犬を題材にした絵本は世界中にあります。
しかし先日、洋書の翻訳をしている友人と話していたら、意外な話を聞き驚きました。
なんと、絵本や児童書の内容について、以前では考えられなかったクレームが出版社へ来るというのです。
特に動物が出てくるお話が鬼門?!だと言います。
具体的に言うと、例えば鳥が主人公の冒険物語を読んだお子さんが、飼っていた鳥も、冒険に行って帰ってくると信じて、外に放してしまった。
『どう責任を取ってくれるんだ!』
また犬のトレーナーを名乗る方が
『例え泥棒であっても一般の愛玩犬が、ハンドラーの指示に基づかない環境で、人に噛みついても良いということを植え付けるのは好ましくない。そういう状況では、たとえ警察犬でもだめな話』
また親御さんと思しき方から
『子供と犬がノーリードで歩いている挿絵は問題。子供は視覚的な印象から入るから、これが当たり前と受け止める。すぐに訂正すべき』

ハリウッド映画でも、最近は脚本の段階だけでなく、撮影現場にも保険会社の担当者が張り付き、セリフや演出などをチェック。
スポンサーや社会的影響、訴訟リスクなどを判断しながら撮影を進めているという話は聞いたことがありますが、まさか出版の、しかも絵本や児童書でこんな問題が起こっているなど思いもよりませんでした。
そのため、次の版を印刷する時、挿絵の一部を訂正することもあるそうですが、ご存じのように本が売れなくなっている時代です。
第二版、第三版と重ねられるベストセラーは、大手出版社でもそうあるものではありません。
「次の版刷り時に、検討させて頂きます」
とでも答えようものなら、
「すぐに回収して、刷り直すべき」
と厳しい声にさらされると言います。
翻訳者として『多少の意訳でなんとかなる時もある』そうですが、作者の意図やストーリーを若干でも変える必要がある場合は、もちろん交渉が必要になります。
そうなると、場合によっては『この本を出版したい』と思ったコアな部分にブレが生ずることもあり、非常に悩ましい判断を迫られることもあるそうです。

本を読むのも好きですが、書く立場にもいた人間としては、非常にショックな話です。
昔から、小説の主人公や映画の登場人物が実在のように感じられ、ごく一部の熱烈なファンが暴走したり、社会現象になることはありました。
しかしほとんどの人は、虚構の世界だと知りつつ楽しんできたのです。
犬や猫がしゃべる物語を読んでも、
「本当はワン!とかニャーしか言わないよね。でもしゃべってみたいよね」
と子供心に思っていたし、大きなかぶを引き抜く物語だって
「あんなに大きなかぶなんかないよね。でもあったらすごいよね」
と思っていました。
『本やTVが面白くなくなった』と言われて久しいですが、紙媒体がこのような環境では、TV・映画などの映像媒体は本当に大変でしょう。
全ての人に受け入れられる作品などこの世にないでしょう。
誰かが『良い話だ!』と思っても、ある人には『不快だ!』と感じることもあると思います。
特にお子さんが目にするものに、親御さんが慎重になるのは当然だと思いますが、物語の背景にある作者の意図を汲み取って、お子さんと話し合うのも絵本の楽しみ方の一つだと思います。
少なくとも、(挿絵も含めて)作者の表現の自由が、過度にゆがめられるのは健全なことではありません。