前回のブログをお読み頂いた方から、
「今度避妊手術をするのですが、手術をすると、やはりホルモンバランスが崩れてしまうものですか?」
というご質問を頂きました。
残念ながら、備わっている器官を切除するわけですから、切除前と全く同じ状態を維持することはできません。
メスの場合、初めての発情前に避妊手術をすると、高い確率で乳腺腫瘍を防げるというデータもあります。
しかし100%防げるわけではありませんし、乳腺腫瘍はオスでも発症するので、卵巣の摘出とどこまで相関性があるのか分かっていない部分もあります。
また
「小学生の女の子が、ある日突然更年期に入るようなものなので、イライラして攻撃的になる」
・・・という説もありますが、経験的には
『そういうこともあるし、そうならないこともある』としか言えません。
逆に、
「オスは穏やかになる(=攻撃性が減る)」
というのもあります。
これも
『そういう個体もいたから、そうかも?』
くらいの話で、相関性が証明されているかと言えば、確たるものがあるわけでもありません。
また
「ストレスから解放されて太る」
という話も良く聞きますが、太る要素は運動や食餌の質、生活環境、その他多くのホルモンバランスがからんだ代謝機能の変化も考えられます。
従って、”太る原因はコレ”と言い切るのも難しいと思います。
(実際、去勢・避妊手術をしても太らない個体を多く見てきましたので。)
このように(避妊・去勢の賛否は置いといて)、生物学的な話に限ると非常に不確定要素が多いと思います。
攻撃性と関連するホルモンとして、テストステロン(雄性ホルモン)が問題になりますが、これは副腎でも分泌されるので、去勢・避妊の有無に関わらず、全ての犬猫に存在します。
もちろん「存在しても、分泌量によって差が出る」ということも考えられます。
しかしそうなると、妊娠期に高濃度のテストステロンを分泌し、一生を通してメスの方が攻撃性が強いハイエナ科の特性の説明がつきません。
もっとも、ハイエナは体重40㎏~50㎏。寿命は12年くらいと言われていて、大型犬のモデルとして比較されることも多いですが、近年の研究でイヌ科ではなく、ジャコウネコ科の近縁と判明したので、どの程度参考になるか分かりませんが・・・。
「イエイヌ、イエネコは去勢・避妊した方が1年~1年半ほど長生きする」
というデータはあります。
しかしイエイヌの近縁であるイタチ科は
「去勢・避妊すると寿命が半分になる」
というデータもあり、何をどう評価するかは非常に難しいのが悩ましいところです。
そもそも、どんなデータも前提条件をよく確認しないと、結果の評価はできません。
有名な話で、ある農作物の育成に関する肥料のデータがあります。
化学的な合成に成功して、より安く、収穫量が増えると評判の肥料がありました。
確かに、その資料を見ると、順調に伸びる数年分の収穫量が記載してあります。
しかしこの試験データの前提条件を確認すると、
『その肥料を使って育てた作物から採取した種は、翌年以降も使用せず、毎年新たな専用種を使用して栽培』
していました。
これでは正しい植物学的評価はできません。
命を繋いでいく種が、健康に育った結果、収穫量が増えたのなら”良い肥料”でしょう。
しかし、その肥料で育った作物の種が、”少ない””病虫害に弱い”⇒”収穫力が落ちる”という可能性も検証しないと評価できません。
というわけで、今回は確たる答えを出せなかったのですが、それだけ生物の世界は深く、模範解答があるようでない世界。
ご自身の考えや価値観で、選択していった結果がその方にとっての”正しい答え”だと思います。