
和洋を問わず、絵画の中の犬と猫の登場回数は、ほぼ五分五分という感じがしています。
しかし、音楽の世界では、どうも犬の分は悪い。
音楽家に愛犬家は少ないのか?と思った時期もありましたが、理由はそれだけでもなさそうです。
音楽で動物を表現した場合、圧倒的に登場回数が多いのは鳥と馬のように思います。
どちらも、美しい声や颯爽と走る様・蹄の音など、特徴的な”音”があります。
その観点で考えると、猫のしなやかな動きは表現しやすかったことが考えられます。
同時に、作曲家という極めてインドアな仕事をする方には猫の方が身近な存在で、観察する機会が多かったこともあるかもしれません。
その中にあって、数少ない名曲・ショパンの子犬のワルツ。
当時同棲中だったジョルジュ・サンドの犬が、アパートの部屋で自分のしっぽを追いかけるようにクルクル走り回っている様を表現したと伝わっています。
残念ながら、ショパンが愛犬家だったという特徴的なエピソードはありませんが、メロディの愛らしさから、可愛がっていたのは間違いないでしょう。
一方、数々の資料から大の愛犬家だと言えるのは、ドイツを代表する巨匠ワーグナーです。

しかも、その愛犬家ぶり・・というか犬バカぶりは筋金入り。
彼の場合は、大型犬から小型犬まで幅広い。
ロシアからフランスまで、50㎏をゆうに超えるニューファンドランドと一緒に旅(実質的には夜逃げ)をする際、「こんな馬鹿デカイ犬を馬車にのせられるか!」と断られ、船旅に変更。
しかもその船は二度も転覆しかけ、命からがらパリへと着いたのです。
しかしこの経験が、後の名作『さまよえるオランダ人』となったのだから分かりません。
またいつもピアノのそばにいたトイサイズのスパニエル。
彼のしっぽの反応を見ながら、作曲を進めていた巨匠は、彼が亡くなったあと大変な悲しみで全く仕事ができなくなった時期も・・・。
一方ロシアの巨匠チャイコフスキーも、『白い小さな犬を飼っていた』との記録があります。
猫を表現した小曲は複数あるので、犬とは縁のない人かと思っていましたが、残された多くの資料から察するに極めて活動的な人。
仕事の合間に愛犬と散歩を楽しみ、作曲の構想を練っていたのかもしれません。
そんなことを想像しながら名曲を聴くと、また違った風景が見えてくるから不思議です。