犬猫の皮膚病
・かゆがる
・フケが出る
・皮膚が赤くなる
・湿疹
そんな症状で病院に連れて行ったことはありませんか?
”皮膚病”とひとくくりにされることが多いですが、中には食物アレルギーによるものもあり、獣医さんも飼い主さんの話や飼育状況などから原因を探っていくことがほとんどだと思います。
またアレルギー性の原因以外では、細菌性、真菌性などによって使う薬が変わります。
細菌が原因となるものの代表として、膿皮症があります。
これはブドウ球菌が原因となりますが、常在菌として普段からある程度皮膚に存在しているのに、免疫力が落ちた時などに増えすぎて皮膚に影響を与えます。
真菌性も同じように、普段からある程度存在しているのに、何らかの原因でバランスを崩した時に問題になることが少なくありません。
そのため薬である程度まで減らすことは大切ですが、再発しないようにと、頻繁にシャンプーをしすぎたりすると、かえって繰り返すことになります。
特に真菌=カビなのでやっかいなのは間違いないですが、『ゼロ』を目指すより微生物は微生物同士でバランスをとってもらう方が良い結果につながると常々思っています。
水虫が治りにくいわけ
例えば、犬の真菌性皮膚炎の原因となるものにトリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)があります。
これは白癬菌とも呼ばれるもので、あの水虫の原因になるものです。
人間の水虫ではトリコフィトン・ルブルムが一番多いかもしれませんが、このメンタグロフィテスもそれに次ぐくらい多いです。
水虫・・と聞けばなかなか治りずらかったり、何度もぶり返すことを体験したり聞いたことがある方も多いかもしれません。
また浴室や梅雨時などは風通しの悪い部屋の隅に生えるカビに悩まされた経験は、多かれ少なかれあり、カビのしつこさは想像しやすいですが、トリコフィトンが輪をかけてやっかいなのは『死んだふり』をすること。
治療薬(抗菌剤)を皮膚に塗ると、一時的に抑制されたようにふるまうのです。
犬猫の皮膚炎も、何度も繰り返すことがありますが、繰り返すというより『死んだふり』をしていただけで治ったように見えていただけかもしれません。
そのため一見良くなったように見えても勝手にやめず、暫く薬を続けることが大切なのはそのような理由からなのです。
カビを制御するカビ
抗菌剤や抗生物質に耐性を持った細菌・真菌の登場が、感染症の治療を難しくしているのは本ブログでもたびたび話題にしてきました。
関連ブログ⇒目に見えない抗生物質
関連ブログ2⇒私たちの中にあるもう一つの町
しかし近年『微生物の制御は微生物に』という考えが様々な分野で増えてきました。
例えば10年ほど前に、岩手県盛岡市にある樹齢360年にもなる有名な桜にキノコが生えてしまい木が弱まってきてしまったことがありました。
花崗岩の隙間から生えているその姿から『石割り桜』と呼ばれ、国の天然記念物にも指定された素晴らしいエドヒガンザクラです。
一般にソメイヨシノは寿命が70年くらいと言われていますが、エドヒガンザクラは大島桜と彼岸桜の雑種で大変長寿。
桜の古木をいうのはたいていこの品種で、中には樹齢1000年というものもあるそうです。
それだけにこの品種は、病気にかかった時に様々な成分を作る機能を持っているのですが、樹齢360年ともなるとやはり弱っていたのでしょう。
生えたキノコを除去しても樹勢は回復せず。
そんな時、真菌の一種であるトリコデルマをキノコに塗りました。
自然のバランス・・持ちつ持たれつ
キノコも真菌の一種です。
だから細胞壁はとても固くて、薬剤はなかなか中に入りこめないのに、木の細胞にはどんどん入ってしまう。
ところが同じ真菌であるトリコデルマは、その攻略法を心得ていて、キノコの細胞壁を溶かしていく物質を作り、ついにキノコを溶かしてしまいました。
木と真菌は、お互いに協力しあって生きているものがたくさんあり、木に生えたキノコがいつも悪者とは限りません。
有名なところでは、マツタケもトリュフも菌根菌の一種で木の根に生えます。
彼らは木から自分たちの栄養源である炭水化物を供給してもらう代わりに、土から吸収した栄養分を木に送り込んでいます。我々が腸内細菌叢の力なくして、生きられないのと似ています。
これまではどうしても
「やっかいなものは無くしてしまえばいい」
という、やや傲慢な考えが浸透していました。
しかし生物の世界は全てが絶妙なバランスで保たれています。
存在しなくていいものなどないのです。
石割桜に生えていたキノコも、老いた桜にとっては困った存在でしたが、別の住処では良い役目を果たしていると思われます。そうやって自然は回っているのです。
関連ブログ⇒カビは我々のご先祖様
留言