何をどう食べるかで変わる心
本記事のタイトルは長年、口腔内を見続けてきた福岡市の歯科医師 伊藤先生の言葉です。
何をどう食べるかによって、心(精神状態、言葉)が変わってくることを見てきたことから、食育に「食べ方」も入れる必要性を訴えられています。
同じ食事内容でも、良く噛んで楽しみながら食べると消化が良くなるのはもちろん、全身の健康状態も良くなり、免疫力の高い体が作れます。
その一例として、歯とは全く関係ない外科手術(ガンを始めとした内臓疾患だけでなく、整形外科分野でも)の前に、歯周病や虫歯の治療など、口腔内の状態を良くしてから受けることで合併症が減り、術後の回復が早くなることが知られています。
これは体の一部や一つの症状ではなく、全身を見て対処していく漢方的な視点から見ると全く不思議な話ではありません。
歯の状況から腎臓が見える
近年、犬猫の寿命が延びたことで、オーラルケアの必要性とその重要性がだいぶ浸透してきました。
そもそも腎は『先天の元気』を蓄積している所と考えられており、歯や骨と密接に関連しています。
歳をとるということは、この先天の元気が徐々に消費されていくことで、腎が弱って腎臓そのものに不具合が出たり、全身の水分がうまく回らなくなって例えば胸に溜まる(胸水)と心臓を弱めることもあります。
また単純に腎臓での老廃物回収能力が弱まることで、疲れやすくなったり、免疫力の低下につながることも。
そのような状況は病気というより”老化”の一つですが、シニアに多い慢性腎炎や心臓病と言った病気、そして歯や骨(骨粗しょう症や変形性関節炎など)の不具合にも全てつながっています。
とは言うものの”腎”が弱ったからといってすぐに腎炎や心臓病になるわけではありません。
肝臓はよく『沈黙の臓器』と言われますが、”腎”もかなり我慢強い臓器です。
それでも肝臓のサインが、目や皮膚に出るように、腎の場合は歯の色が変わったり(透明になるとか黒ずんでくるなど)、口臭が気になるようになります。
オーラルケアに歯磨きはもちろん大切ですが、長年ご相談を受けている中で感じることは、”腎”とそれを支配している”脾臓”&”胃”のバランスをとることが、歯磨きと同等・・若しくはそれ以上に大切かもしれないということです。
ティッシュや石などを食べることはありませんか?
犬猫の場合は、人と違って唾液にアミラーゼ(デンプンを糖に変える消化酵素)を含んでいないだけでなく、そもそも顎の構造上、ヒトや草食動物のように歯ですりつぶしてから飲み込む・・ということができません。
歯は『嚙み切る、砕く』ためのもので、消化を良くする役目は低いのです。
しかしその分、胃や脾の機能が非常に大切になってきます。
”腎”というのは全身に水を回し、各臓器の活動によって生まれる熱を冷ます役目をしています。
ところが、なんらかの理由で腎の活動が下がったりバランスを崩すと、まず腎を支配している胃と脾の熱が抑制できなくなります。
その結果まず
・胃がムカムカするせいで、口をぺちゃぺちゃさせる
・ドライフードを食べたがらない
という様子が見られます。
その段階でケアできないと
・吐く
・ティッシュや石を食べたがる
というような症状につながることがあります。
例えそのような異物を食べなくても、胃の熱を冷ましたくてむさぼるように食べたり飲んだりするようになります。
何か胃に物を放り込むことで、『抑えたい』という要求に突き動かされるのです。
腎と胃・脾の感情
腎は恐怖とか恐れの感情と関連します。
つまり何かに怯えたり常に恐れを感じながら過ごすと腎を弱めます。
そうして感情が臓器に影響を与えることもありますが、逆に臓器が感情に影響することもあり、腎が弱ってくると、ぼんやりしてちょっとしたことで驚きやすくなります。
そして胃・脾は”思”とされてますが、憂慮とか思い悩むと・・という感じです。
ずっと思い悩んでいたら胃にきますよね。
そして胃の熱が口内炎や口腔内の炎症を引き起こすと考えられているのです。
犬猫も頂いた命(食物)によって心が変わる
どういうものを食べているかによって、精神や感情に影響するのはこのように栄養素の問題だけではないのです。
例えば野菜不足でイライラする・・という話はよく聞きますが、野菜というのはしっかり噛んで食べないと飲み込めませんし、繊維質の消化に時間がかかります。栄養素の数字は変わらないから野菜ジュースでもいいのではないかと考えがちですが、自分の歯で噛み砕き唾液を十分に出して摂るのと、ただごくごく液体を飲むのでは受け入れる体的には結構差があります。
犬猫の場合は、咀嚼より胃・脾の活動がより重要で、胃の熱を上げるドライフードは十分な水分が必要です。それも胃に入る時点で、しっかり水分を含んでいること。
『ドライフード&水』であることが重要で、『ドライフード後に水』ではダメです。
そういった水分は胃内停水を招いたり、水はけの悪い土(胃)を作ることもあります。
良い土(胃・脾)に適度な水(腎)がまんべんなく浸み込むことで、良い木(肝臓)が育ち、実りがあります。
犬猫は人に分かる言葉で暴言を吐いたりしませんが、イライラしたり不安から自分の手足や皮膚をひっかいたりする、異物を食べる、頻繁に吐く・・という個体に出会うことが増えました。
病院では”皮膚炎”や”胃腸炎”、見た目や検査数値が正常ならしつけの問題や性格として片づけられることも多いですが、よく観察して飼い主さんのお話を伺っていると意外なところに原因が見つかることもあります。
そこで食事内容や食べ方(例えば運動をしてお腹をすかせてから食べさせるなど)を少し変えると、性格や行動に変化が見られることは多々あります。
もちろん長年悩んできた身体的不調が、改善していくことも。
シニアだから手遅れ・・なんてこともありません。
シニアこそ毎日を楽しく心身共に健やかに過ごすことが大切で、
歯=腎
と
口=胃・脾
を整えることは間違いなく重要な役目を果たしてくれると思っています。
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