東洋医学から見る36~漢方薬の宝庫


縄文時代の医療

今から1500年ほど前の飛鳥時代に、麻疹や天然痘と思われる感染症が発生した記録があります。


当時は加持祈祷が中心で、一部大陸から伝わった”治療”もあったらしいですが、『祟り』や『呪い』が原因と考える人も多く、何度も都を移しています。



それよりはるかに古い”縄文時代”となれば、さぞかし原始的な生活をしていたかと思われるかもしれませんが、縄文遺跡からの出土物を見ると決してそうとは思えません。

むしろ和漢の元祖が見てとれます。


1500年間の集落維持は偶然では起こり得ない

青森市にある世界文化遺産 三内丸山遺跡は、約1500年間集落を維持してきたと考えられています。


疫病で、都が右往左往した様子が文書に残っている飛鳥時代から現代までも約1500年間。同じくらいの時間、一か所に留まって生活する中で、けがや病気は当然あったはずです。



『他の地域との交流がなかったから感染症が流入するリスクも少なかったのでは?』

という見方もできますが、現在の北海道、秋田県といった隣道県だけでなく、新潟などかなり離れた地域との交流を伺わせる出土物が多数あります。



また生物学的にも、閉鎖的な小さな集落で婚姻を繰り返していると、遺伝的な問題が起こりやすく集落が維持できなくなります。


そういう問題も経験的に知っていたからこそ、

・それを避ける方法(他地域と婚姻関係を持つ)

そして

・病気・ケガなどへの対応


を備えていたからこそ、1500年にも渡る集落の維持が可能になったのでしょう。


興味深い種子たち

確かに人数的には現代ほど人の移動が多くなかったとはいえ、人の交流はそれなりにあり、むしろ野生動物との距離は近かったことを考えると、特別リスクが低い時代ともいえません。


そこで三内丸山遺跡の出土物に目を向けると、大量のニワトコの種子と一緒に出土した植物の種のリストに驚きました。


『キイチゴ・ヤマブドウ・ヤマグワ・マタタビ・サルナシ』


こういった種子がニワトコと一緒に出土したため、

「お酒を造っていたのではないか」

という推論があったのですが、収穫時期がだいぶ離れているものもあります。



例えばキイチゴとヤマグワ、マタタビは現代の気候でも果実の収穫はほぼ同じ、6月~7月です。



しかしサルナシはどんなに早くても、9月下旬から11月です。(標高によって変わる)

ヤマブドウはサルナシと収穫時期が重なりますが、いわゆる嗜好品としての”酒”を作ったとするなら果実を発酵させた可能性が高く、それぞれ単体か近い時期に収穫する果実から作っていたとしても不思議ではありません。


しかし個人的にはお酒なら”薬用酒”、むしろこれらの植物は”薬”として使っていたのではないかと推察します。



和漢の原点?!

先に挙げた5種類のうち果実部を使うのは、キイチゴ(完熟前のものを使う)とマタタビのみ。マタタビは木部と虫こぶも使います。


一方、他の3種類は

・ヤマグワ(ソウハクヒ)⇒出芽前の根

・サルナシ(トウリコン)⇒根や根皮

・ヤマブドウ(ジャブドウ)⇒葉・茎(ジャブドウコン)⇒根・根皮

と果実は使いません。


果実の収穫より、根を中心に収穫したいと考えると、種を保管し、小まめに植えて育てる必要があったのではないでしょうか。


その集落だけなら、挿し木や接ぎ木のような技術もやっていたかもしれませんが、重要な薬となると、他の地域に送り出す家族に持たせたり、他地域との交流の中で、軽くて保存性が良い『薬になる木の種』は貨幣価値に匹敵するものがあったかもしれません。


現役の生薬たち

この5つの植物は、今も現役の生薬として使われ続けています。


特にヤマグワ(桑白皮/ソウハクヒ)は清肺湯・杏蘇散・五虎湯といった漢方薬の重要な構成生薬です。

清肺湯に使われていることからも想像しやすいですが、消炎・鎮咳・利尿作用もあります。

まさに呼吸器系の感染症にはうってつけの生薬です。



そしてマタタビ(木天蓼/モクテンリョウ)は、体を温めて血行を良くし、強心・利尿作用があります。

蔓や葉は入浴剤として使え、冷え、腰痛、神経痛、リューマチに適応した第三類医薬品として販売されています。



サルナシ(藤梨根/トウリコン)は、熱を冷まし、於血を取って気の巡りを良くしてくれるので、肝炎や関節炎の治療に使われています。


A型肝炎などは、井戸水や二枚貝、海外ではラズベリーなどで感染した例もあるので、このウィルス性肝炎は縄文時代にもあったかもしれません。

熱やだるさなど他の感染症でも起こる症状の他、黄疸という独特の症状が出ますので、「そういう時はサルナシ!」と知っていたかもしれません。

(現代の中国では今非常に注目されていて、様々なガンに使える抗がん剤として使用されています)



キイチゴ(覆盆子/フクボンシ)は肝臓を守り、腎臓を強化し視力回復の手助けをするとされているので、中年以降には人気だったかもしれません。



そしてヤマブドウ(蛇葡萄/ジャブドウ&蛇葡萄根/ジャブドウコン)は、内服すると慢性腎炎・消化器出血、嘔吐、下痢に、外用では外傷による出血、おでき、火傷、打撲にと当時起こりやすかった症状に広く使えます。

まさに”救急箱に常備したい”と思う薬効です。


三内丸山遺跡の発掘調査現場

歴史は繰り返す?

これほど優れた植物があったのに、飛鳥時代にはなぜ祈祷に頼るようになったのでしょうか。むしろ縄文時代から存在していた薬草などの知見が深まっていても良いはずです。



そこに人間側の

「新しい知識こそ正しい。海外からもたらされたものは素晴らしい」

という思い込みがあるような気がします。


確かに古い知識が間違っていたこともたくさんあります。

海外から素晴らしいものがもたらされても来ました。


しかし新しい知識が必ずしも正しいとは限らず、既存のものの中に、忘れてはもったいないものもたくさんあります。



そういうことを知るためにも、最新の情報だけでなく、歴史から学ぶべきことはたくさんある・・・三内丸山遺跡の出土物はそんなことを教えてくれたように思います。


関連ブログ⇒東洋医学から32~縄文人も使ったニワトコ