牛乳に混入していた抗菌剤
最近、大手乳業メーカーの牛乳に動物用医薬品(スルファモノメトキシン)が検出され、回収しているとの報道がありました。
それに次いで、その生乳を使用して作ったヨーグルトも、薬剤の混入が否定できないとのことで回収対象になっていると・・・。
今の所健康被害の報告がないのは良かったですが、いくつか気になる点があります。
なぜ検査をすり抜けた?
ある関係者に聞いたところ
「生乳を運び込んだ時点でいくつかの検査はされるはず」
と言うのです。
なぜなら1軒の農家の生乳にこのような残留薬物や食中毒を起こす可能性のある微生物が混入していたら、タンクにある生乳全てが廃棄せざるを得なくなるからです。
メーカーごとに検査項目は若干違うかもしれず、回収しているメーカーでこの抗菌剤は項目外だったのかもしれません。
この抗菌剤の投与は搾乳の72時間前までと規定されておりますが、食肉にする場合はと殺の28日前まで。(豚の場合は14日前まで)
牛乳は元はと言えば血液なので、食肉の規定が28日前になっているのに、牛乳は72時間前までで良いのか今後議論されるかもしれません。
薬剤耐性菌の被害
数年前に卵でも大手業者の鶏卵から抗生物質の残留が確認され回収されたことがありました。
その時も今回も健康被害は報告されてませんが、微量の抗生物質を摂取し続ける弊害はあまり意識されていないように思います。
「ただちに影響はない」
という言葉は過度な不安を和らげてくれますが、言い方を変えれば
「いつかは影響があるかもしれない」
くらいに考えていた方が良いように思います。
その証拠に全世界的に”薬剤耐性菌の出没”が問題視されており、畜産物だけでなく環境から検出される残留抗生物質は非常に悩ましい状況です。
関連ブログ:川の流れに身を任せられない話
畜産肉から抗生物質摂取?
また「畜産物への使用を禁止すると畜産業は壊滅してしまう。きれいごと言うな!」
という意見も見かけます。
我々消費者に少しでも安い価格で流通させようとしたら、効率の良さを極限まで追求しなければならないでしょう。
しかし生き物を相手に、どの部分に効率の良さを求めるのか?
北欧スウェーデンでは1980年代に、抗生物質耐性菌の感染症で入院した患者の3人に1人が、抗生物質の服用歴がありませんでした。
服用歴がないのに、なぜ耐性菌の感染症に?
そこで問題視されたのが、家畜のエサに混ぜられた抗生物質でした。
ごく微量とはいえ、肉に残留した抗生物質を長期間摂取し続けていたのが原因ではないかと。
そこで1988年スウェーデンではほぼ全ての家畜に対してエサに抗生物質を混ぜることを禁止しました。
この対応に対して他国からは
「スウェーデンの畜産業はあっという間に壊滅するぞ」
と嘲笑まじりの声もあったそうです。
しかしそれからすでに30年以上経っていますが、今もってそんなことは起こっていません。
むしろ安全な畜産肉として引く手あまたです。
何故抗生物質を多用するのか
「経済性を優先して過密な環境で飼っていると病気が蔓延しやすいから?」
というより、多くの場合早く太らせたいからです。
そもそも抗生物質は対象となる細菌の種類がある程度特定されないと、投与薬剤が決まりません。
だから”予防投与”というのはあり得ないのです。
しかしどの抗生物質を使用しても、その副作用として一時的に腸内細菌叢が崩れます。
通常怪我や感染症などの治療では5日~1週間程度の処方で、治療対象の症状が改善すれば投与を中止し、暫くすれば腸内細菌叢も戻ってきます。
しかし少量であっても摂取し続けると、腸内細菌叢は回復せず太ってくるのです。
出荷規定体重に1日でも早く達すれば、その分エサ代や糞尿などの産廃も減り、経費節減になるわけです。
これには農水省も問題視しており、たびたび獣医師会を通して畜産農家に関わっている獣医師に周知させるよう通達を出しているのですが、なかなか定着していません。
関連ブログ:ワンヘルス
本当に食べ物アレルギーなのか?
犬猫の食べ物アレルギーを聞くようになって久しいですが、ここ数年「鶏肉アレルギー」と診断されるワンちゃんネコちゃんが増えているのが気になっています。
肉のアレルギーでも下したり、皮膚のかゆみなどが出ますが、抗生物質アレルギーの症状も似たようなものです。
食べ物アレルギーは含有量の問題ではなく、(今回収している牛乳もそうですが)アレルギーを持つ人、動物にとっては『微量だから大丈夫』という話ではありません。
そのため『鶏肉アレルギー』『卵アレルギー』『サーモンアレルギー』などが疑われる中には、それぞれに含まれる抗生物質のアレルギーも紛れていないか疑問に思ってます。
抗生物質の登場が、多くの感染症から救ってくれたのは間違いありません。
しかしその使い方については、今一度慎重に議論されるべき時期がきていると思ってます。
関連ブログ:目に見えない抗生物質②